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標準利率:来年4月から0.25%に

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保険会社が責任準備金を積み立てる際の重要な計算基礎の一つである標準利率。これが改定されることが決定しました。

まずはその決定方法を確認しておきましょう。具体的な規定は平成8年大蔵省告示第48号にありますが、概要は以下のとおりです。

  • 過去の10年国債応募者利回りを基礎データとする。
  • 毎年10月1日における、「過去3年の10年国債応募者利回りの平均」と「過去10年の10年国債応募者利回りの平均」のうち低いほうを対象利率とする。
  • 対象利率に安全率係数をかけたものを基準利率とする。
  • 基準利率が現在の標準利率から0.5%以上乖離していた場合には、翌年4月からの標準利率を改定する。
  • 改定後の標準利率は、基準利率を0.25%単位で丸めた値。

9月1日に10年国債の入札があり、応募者利回りが決定したため、来年4月から適用される標準利率が決まりました。具体的な数値は次のようになっています。

  • 現在の標準利率は1%
  • 「過去3年の10年国債応募者利回りの平均」は0.361%
  • 「過去10年の10年国債応募者利回りの平均」は0.983%
  • したがって対象利率は0.361%
  • 対象利率に安全率係数をかけた基準利率は0.325%
  • 基準利率が現在の標準利率から0.5%以上乖離しているので、来年4月からの標準利率は改定される
  • 改定後の標準利率は、0.325%を0.25%単位で丸めた0.25%

さて、では今後この標準利率がさらに変わることはあるでしょうか? 変わるためには0.5%以上の乖離が必要なので、基準利率が0.75%以上となるかマイナス0.25%以下となるか、いずれかの状態が生じることが条件となります。

まず上がるほうから。基準利率が0.75%以上となるためには、対象利率が0.834%以上とならなければいけません。しかし現在の金利環境を見ると、最長の40年国債でも利回りは0.5%そこそこ…当面、生じることはなさそうです。

ではマイナス0.25%以下になることはあるでしょうか。7月の10年国債の入札時には応募者利回りがマイナス0.243%まで低下し、「すわ!」と思われましたが、それ以降はやや持ち直しており、こちらも生じる可能性は低そうです。しかしそもそも10年金利がマイナスになることすら昨年までは想像もできなかったので、もはや何が起こるか分かりません。

最近の債券市場サーベイにも表れていますが、国債市場の機能度の低下は目を覆うものがあります。それが規制上の重大な要素に直結している生命保険業界の関係者としては、一刻も早く金利市場が正常化してほしいものです。


生保の資本調達

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日銀が「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という複雑骨折感ありありの政策を導入してから1ヶ月近くたちますが、長期金利は0%近辺どころか▲10bps近くですっかり落ち着きつつあります。来年4月からの標準利率も0.25%に下がってしまいます。ほんとうに、生保関係者にとってはマイナス金利政策については恨み言しか出てきません。

(やってみたかっただけですすみません)

そんな中でかろうじてメリットを挙げるならば「調達がしやすい」ということでしょうか。実際、生保各社の資本調達の動きが活発です。今年度に入ってからの調達動向をちょっとまとめておこうと思います。

以下、順番にコメント。

なお、劣後債については利率のステップアップ条項があり、かつステップアップ時に繰上償還(コール)が可能となっているものが一般的です。例えば30年の劣後債で、当初10年間は固定金利、10年経過時にステップアップ(かつ繰上償還可能)といった感じです。こういうのを「30NC10」と書いたりしますので、以下この書き方をします。

日本生命

30NC10の劣後債700億円と、35NC15の劣後債300億円、あわせて1,000億円の調達。いずれも私募です。

利率については、30NC10のほうは当初10年間の利率が0.94%、35NC15のほうは当初15年間の利率は1.12%。

ステップアップ後は変動金利になるのが一般的ですが、ステップアップ後も固定金利になっているのが珍しいですね。何でそうしたのかは分かりませんが。

朝日生命

ニュースリリースだと基金を110億円、劣後ローンを20億円調達する予定となっています。

社員総代会の議案を見ると、基金は8月末までに調達となっていますね。

期間・利率などは不明。

住友生命

60NC5を700億円、60NC10を300億円の、あわせて1,000億円の調達。いずれも私募です。

利率については、60NC5のほうは当初利率が0.84%、60NC10のほうは当初15年間の利率は1.04%。

第一生命

ドル建ての永久劣後債を25億ドル。10年ステップアップです(「PerpNC10」と書きます)。シンガポール取引所上場。利率は当初10年間が4.00%。

三井生命

PerpNC5を300億円、30NC10を500億円。あわせて800億円の調達です。私募。

利率については、PerpNC5のほうは当初利率が0.74%、30NC10のほうは当初利率が0.86%。

明治安田生命

劣後ではないです。基金募集です。証券化した国内公募。期間5年のものを1,000億円調達。利率は0.28%。

ちなみに基金については、償却(債券の償還と同じ意味です)時に「基金償却積立金」を積み立てる必要があるため、劣後と違って期間は一般にそれほど長くありません。

富国生命

PerpNC10を500億円。当初利率は1.02%。

それぞれの格付けを記載しようかと思ったのですが面倒(だしあまり利率に効いてなさそう)なので調べていません。一般論としては、劣後債は保険金支払能力格付けに対して1ノッチ下、基金は1~2ノッチ下に設定されます。最近の格付変更に関しては、上の会社の中では三井生命が日本生命傘下となったことによる格上げがあったぐらいなので、今の保険金支払能力格付けを見れば発行当時の格付けは大体わかると思います。

この金利環境は経済価値ベースで見るとかなりのものですし、各社とももう少し調達額を増やしたりするんでしょうか。

今年観た映画(私的)ランキング

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ここ数年、わりとこまめに映画を観るようにしています。今年は48本の作品を劇場で観ました。(複数回観ているものがあるので、劇場に足を運んだ回数はそれより多いですが)

で、年末でもあり、備忘を込めて、個人的な年間ランキングです。ランキングといっても、作品の良し悪しについて云々できるほどの映画眼もありませんので、多分に個人の感覚によるものです。そもそも今もこのランキングを眺めながら「こっちのほうが上位じゃないか…」みたいなことを悩み出していたりもするのですが、きりがなさそうなので暫定版ということで。

  1. シン・ゴジラ
  2. 映画 聲の形
  3. 海よりもまだ深く
  4. この世界の片隅に
  5. ちはやふる 下の句
  6. オデッセイ
  7. 永い言い訳
  8. ガールズ&パンツァー 劇場版
  9. ヒトラーの忘れもの
  10. 君の名は。
  11. ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー
  12. ハドソン川の奇跡
  13. マネー・ショート 華麗なる大逆転
  14. 64 ロクヨン 前編
  15. ブリッジ・オブ・スパイ
  16. スポットライト 世紀のスクープ
  17. ヤクザと憲法
  18. 湯を沸かすほどの熱い愛
  19. ちはやふる 上の句
  20. 機動戦士ガンダム THE ORIGIN III 暁の蜂起
  21. アイアムアヒーロー
  22. 何者
  23. 奇蹟がくれた数式
  24. 劇場版 響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部へようこそ
  25. ズートピア
  26. 怒り
  27. 葛城事件
  28. 高慢と偏見とゾンビ
  29. 機動戦士ガンダム THE ORIGIN IV 運命の前夜
  30. ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅
  31. 完全なるチェックメイト
  32. 帰ってきたヒトラー
  33. クリーピー 偽りの隣人
  34. マネーモンスター
  35. 二重生活
  36. 聖の青春
  37. ジャック・リーチャー NEVER GO BACK
  38. インデペンデンス・デイ:リサージェンス
  39. エクス・マキナ
  40. X-MEN:アポカリプス
  41. さらば あぶない刑事
  42. ピンクとグレー
  43. 四月は君の嘘
  44. アズミ・ハルコは行方不明
  45. バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生
  46. 蜜のあわれ
  47. 64 ロクヨン 後編
  48. 超高速!参勤交代 リターンズ

今年は、原作を知っている/知らない で、映画を観た時の感想が大きく違いそうな作品がいくつかみられました。例えば「聲の形」、「この世界の片隅に」、「何者」などはそんな印象を持っています。先入観が入ると楽しめないだろうと考え、私はなるべく原作を知らない状態で観るようにしていたのですが、原作を知った上で観ることによってまた異なった楽しみ方ができる、というのは新たな発見でした。

来年も素晴らしい作品に数多く出逢えますように。

「長時間労働」批判について

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年の最後にこんなエントリというのもどうかと感じてはいるのですが、やはりある意味で今年最大の話題だったとも言えますので、ぜひ触れておきたいと思います。

電通社員の過労自殺事件以降、違法な長時間労働に対する批判が止まりません。その意見のそれぞれがもっともではあるのですが、その解決策となるとどうにも釈然としないものを覚える、というのが私の今の感覚です。

そこで参考として、保険や銀行のような規制業種においてこのようなことが起こった場合(しかもその領域が当該監督当局の管轄下であった場合)にはどうなるかを考えてみます。

何らかの不祥事に対して監督当局が下す命令のうち主なものは「業務停止命令」と「業務改善命令」です。業務停止命令は業務の全面停止だけでなく、たとえば新契約に関する業務といったように、一部停止を命じることもあります。業務改善命令は、問題となった事象についうてどのように対応し、改善策をどのように施すかを改善計画として提出するものです(当然ながらその計画の履行状況も報告する必要があります)。

さて、今般話題になっている違法な長時間労働についてこのような対応を当てはめると、

  • 業務改善命令:違法な長時間労働をなくすための改善計画を提出させ、その計画の履行状況をモニタリングする。
  • 業務停止命令:違法な長時間労働がなくなるまで、一部または全部の業務を停止する。

といった対応になると思われます。

しかしこの場合において業務改善命令という方法は取り得ません。業務改善命令を下すのは、改善するまでは違法な長時間労働の状態を容認するということになるからです。

となると業務停止命令ということになるのですが、ではどの程度の期間、業務停止をすればいいのでしょうか。

長時間労働というのは、相当程度会社に根ざしたものです。電通の社長も、長時間労働について「風土」という表現を使っています。

長時間労働「『是』とする風土あった」…石井直社長が弁明 - 産経ニュース

このような「風土」を是正するのはちょっとやそっとの期間ではできません。本件と同列に論じてよいかは異論があるかもしれませんが、保険業界のいわゆる保険金不払いについても、業務改善命令が出されてから解除されるまでに3年かかっています。

業務改善命令を発出した生命保険会社10社の改善状況について

しかもこれは「業務改善命令」についてです。3年以上の業務停止というのは、行政措置としてちょっと想定できません。(3年間業務停止するのは企業の息の根を止めかねないため、破綻処理というより厄介な問題を背負い込むことになるという事情もあるのでしょうが)

となると、規制業種に対するような行政措置の枠組みを「違法な長時間労働」の問題に当てはめるならば、ある程度違法状態を容認しつつ是正状況をモニタリングする、という方法が思い当たります。

そこで「違法な長時間労働」の問題を考え直してみると、そこは「長時間労働である」ということに加えて、「労働時間に対する残業代が適切に支払われていない」ということがあることに気付きます。違法に労働している部分について残業代を支払っていれば会社が違法状態を認識していることになるため、会社がとる行動としてはある意味当然なのですが、これが問題を増幅(無理に合法状態にするか違法状態で残業代を払わずに開き直るかの二択しかない)にしているように思えるのです。

残業が風土だとすると、その是正には時間がかかることから、

  • 業務改善命令で長時間労働是正の計画を提出させ、
  • 計画達成までは長時間残業に対し残業代を適切に支払わせ、
  • 計画未達であれば業務停止を命じる

といった対応が現実的な気がするのです。業務改善計画とその達成状況を公表させるというのもありかもしれません。

12月24日にはNHKスペシャルで長時間労働について取り上げられていました。

NHKスペシャル | 私たちのこれから #長時間労働

これを見ていても思ったのですが、単に長時間労働をなくすための規制強化では、違法状態で開き直る企業や潜脱行為に走る企業を減らすことは困難に思われますし、何よりも多様な働き方という考えに逆行していることに「スジの悪さ」を感じます。副業も含めて働き方の自由度を高めるためには、労働時間規制自体よりも労働に対する対価の支払いの適正化のほうが良策に思えます。

年頭挨拶

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明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

という挨拶をする季節となりました。保険会社各社のHPにも、このような年頭挨拶が載せられています…と書こうとして驚きました。3社しか載せていないんですね。しかも大手生保だけ。

第一生命は載せていないのですが、これは昨年末に社長交替の発表があったからかもしれません。2016年は載ってました。

不思議なことに損保はどこも載せていません(ただし三井住友海上は2016年は載せていた)。

興味がわいたので銀行も調べてみました。以下の2行だけが載せているようです。

しかしこれ、特に不思議なのは、生保のは「社長年頭挨拶」っていうタイトルなんですよね。HPに載せられてる「社長年頭挨拶」であれば、通常はHPを閲覧する人、まあ契約者とかに向けたものであろうと想定するのですが、社内の役職員向けの内容を公開しているんですよ。その点、銀行のものは「頭取年頭訓示」となっていて、誤解がありません。

ということで、この「年頭挨拶」については、いくつかの疑問を持っています。

  • なぜ社内向けのものをHPで開示しているのか?
  • なぜ(ほぼ)生保だけなのか?逆に、なぜ損保やメガ銀は載せていないのか?
  • 生保の中でも、なぜ大手だけなのか?(しかも今回の第一生命を例外とすると、大手4社が足並み揃えていることになる)

このあたりについてご存じの方、教えてください。なお、HP掲載を批判する意図はまったくありませんので念のため。

ちなみに、契約者向けとか投資家向けならすんなり理解できるんですよ。調べた中では愛媛銀行がIRニュースとして頭取の年頭挨拶(もちろん投資家向け)を載せていたのですが、なぜか今見ると消えているようです。サイト内検索結果にだけは残ってるんですけど。

2017年4月からの保険料率改定

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現在1%となっている標準利率が今年の4月から0.25%に下げられることに伴い、今月になって各社が保険料率の改定を公表しています。その内容をみてみましょう。

みどり生命(2016年12月22日発表)
http://www.midori-life.com/company/infomation.html#kaitei
定期保険、終身保険について保険料率引き上げ。こども保険は販売停止。

アフラック(2017年1月20日発表)
http://www.aflac.co.jp/info/revised_rates.pdf
定期保険、終身保険などについて予定利率を改定。保険料率引き上げとなる例が多いものの、若齢の定期特約などでは引き下げとなっています。また、商品によっては改定時期が4月ではなく、3月または7月となっています。

メットライフ生命(2017年2月1日発表)
http://www.metlife.co.jp/about/press/2017/pdf/170201.pdf
終身保険について保険料率引き上げ。終身保険(低解約返戻金型)は3月から、終身保険(引受基準緩和型)は2月から改定。

日本生命(2017年2月22日発表)
http://www.nissay.co.jp/news/2016/pdf/20170202.pdf
学資保険、年金保険、終身保険などの保険料を引き上げ。定期保険などは改定せず。

明治安田生命(2017年2月23日発表)
http://www.meijiyasuda.co.jp/profile/news/release/2016/pdf/20170223_01.pdf
主力商品「ベストスタイル」について保険料引き下げ。定期保険、終身保険などについて保険料引き上げ。

住友生命(2017年2月23日発表)
http://www.sumitomolife.co.jp/about/newsrelease/pdf/2016/170223a.pdf
基本的に保険料引き上げ。ただし商品・年齢によっては引き下げとなる場合も(「ドクターGO」30歳契約など)。

三井生命(2017年2月23日発表)
http://www.mitsui-seimei.co.jp/corporate/news/pdf/20170223.pdf
保障セレクト保険、定期保険、養老保険などについて保険料率引き上げ。

朝日生命(2017年2月28日発表)
http://www.asahi-life.co.jp/company/pressrelease/20170228.pdf
保険料例のみ記載のため詳細は不明ですが、介護保険、医療保険の保険料例は引き上げ、定期保険の例は引き下げとなっています。

富国生命(2017年2月28日発表)
http://www.fukoku-life.co.jp/about/news/download/20170228.pdf
学資保険、年金保険、定期保険、養老保険について保険料率引き上げ(定期保険は短期の事例で引き下げあり)。「未来のとびら」、「医療大臣プレミアエイト」については改定なし。

かんぽ生命(2017年2月28日発表)
http://www.jp-life.japanpost.jp/aboutus/press/2017/abt_prs_id001136.html
保障性の高い一部商品について保険料率引き下げ、養老保険、終身保険、学資保険などについては基本的に引き上げ(条件によっては引き下げ)。

まっさきに保険料率改定を公表した「みどり生命」は、2008年に共済から移行した生命保険会社です。しかし改定時期の4ヶ月以上も前に公表するのはめずらしいです。まあ、早ければいい・遅ければ悪いといったたぐいのものではありませんが。

前回の標準利率改定でも同様のブログを書きましたが、傾向としては前回とほぼ同様かと思います。マイナス金利政策下で運用収益がきわめて厳しい状況にある以上、貯蓄性商品の予定利率引き下げ(=保険料引き上げ)はやむなし、ただし主力商品あるいは保障性商品では現行水準を維持したい、というところが見えます。

ちなみに定期保険の料率が上がるか下がるかについてはややバラツキが見られますが、これは保険期間が短期か長期かで予定利率の変化の受け方が大きく異なるためだと思われます。さらに(おそらくは)予定利率以外の計算基礎も変更している可能性があるので、話はそう単純ではないでしょうが…

書評『「原因と結果」の経済学』

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この本のおもしろさは、目次を見ていただければ一目瞭然でしょう。

  • 第1章 根拠のない通説にだまされないために
  • 第2章 メタボ健診を受けていれば長生きできるのか
  • 第3章 男性医師は女性医師より優れているのか
  • 第4章 認可保育所を増やせば母親は就業するのか
  • 第5章 テレビを見せると子どもの学力は下がるのか
  • 第6章 勉強ができる友人と付き合うと学力は上がるのか
  • 第7章 偏差値の高い大学に行けば収入は上がるのか
  • 第8章 ありもののデータを分析しやすい「回帰分析」
  • 補論① 分析の「妥当性」と「限界」を知る
  • 補論② 因果推論の5ステップ
  • おわりに

2つのデータの間に相関関係が観測されることはしばしばありますが、それが必ずしも因果関係をあらわすものではないことは、このブログをご覧になるような方々であればご存知だと思います。本書は、因果関係の有無を検証する「因果推論」をテーマとしています。

取り上げられた内容が身近な点はレヴィットとダブナーのベストセラー「ヤバい経済学」を彷彿とさせますが、本書はそれらのトピックをそれぞれ因果推論の手法にきちんと結びつけて説明しているところが素晴らしいです。例えば、投資クラスタではおなじみの「ジブリの呪い」がいきなり出てきます。

宮崎駿監督率いるスタジオジブリの映画が日本のテレビで放映されると、アメリカの株価が下がるという「ジブリの呪い」の話を聞いたことがある人もいるだろう。この法則は、アメリカの『ウォール・ストリート・ジャーナル』までもが取り上げて話題となった。これはまさしく、「まったくの偶然』による見せかけの相関の典型例だ。

「ジブリの呪い」をご存じない方はこのあたりの投資家の阿鼻叫喚をご覧ください。

さて、本書では喫煙にまつわるトピックが多く取り上げられていますので、そのうちいくつかをピックアップしてみましょう。

一つは受動喫煙と肺がんとの因果関係に関して国立がん研究センターが発表した内容にJTが反論し、さらにその反論について国立がん研究センターが再反論したというものです。国立がん研究センターのほうは「メタアナリシス」という因果推論の正統な手法を用いていることから、再反論でJTはコテンパンに論破されています。

もう一つは受動喫煙防止のための喫煙規制強化の影響です。アルゼンチンでの規制の分析の結果、喫煙規制を厳格に強化した地域とそうではない地域との間に、売上には統計的に有意な差はなかったそうです。いっぽう日本では、神奈川県の受動喫煙防止条例による経済効果についての調査を三菱UFJリサーチ&コンサルティング社が発表していますが、そこではマイナスの影響となっています。この点に関してちょっとつぶやいてみたら、なんと著者ご本人からコメントが返ってきました。

最近になって同様の調査が富士経済から公表されていますが、これもマイナスの経済影響となっています。

これらについては著者の津川氏のご指摘のとおり因果推論を正しく行っていないということもあるのですが、それ以上に「喫煙規制強化は外食産業に打撃を与えるだろう」という思い込みが前提になっていることが問題のように思われます。少なくともアルゼンチンの事例は、そういった直感に反する結果が出ています。

このように、因果推論を行うことによって「直感的に予想されていたことに対し、実際にはそうではなかった」ということが明らかになる(逆に因果関係を明らかにできない他の手法では予想に反する結論が出てこない)ことが最大の意義ではないかと思います。上に挙げた事例の他にも、直感や予想に反する事例が豊富に載っており、読み物としても、因果推論の学習の入り口としてもおすすめの本です。

ワンコインランチ問題

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こんなツイートを見たんですよ。

950円(500円玉1枚、100円玉4枚、50円玉1枚で計6枚)を払うと9円(5円玉1枚、1円玉4枚で計5枚)のおつりになって、差し引き941円。たしかにワンコインになります。

が、これは上限なのでしょうか。案の定ツッコミが。

ということで、ちと条件を考えてみました。

まず、ワンコインなので

  • 支払に紙幣は使わない。
  • 支払った硬貨の枚数-おつりの硬貨の枚数=1

という条件は必要ですね。あとは

  • 支払およびおつりは、使う紙幣または硬貨の数が最小になるように行なわれる。

という条件が必要になります。紙幣を使わないのに「使う紙幣または硬貨の数が最小に」と書いているのは、硬貨の数を最小にするだけなら、例えば500円玉2枚がOKになってしまうからです。

以上の条件設定の下では、941円が上限となります。

上限を求めるためには、「支払金額をなるべく大きく」「おつりの額をなるべく小さく」することが必要になります。また、支払った硬貨の種類とおつりの硬貨の種類はすべて異なります(そうでないとすると、単に支払った硬貨を返しているだけになる)。札を使わない前提で使える硬貨の上限は999円(500円玉1枚、100円玉4枚、50円玉1枚、10円玉4枚、5円玉1枚、1円玉4枚)であり、このとき硬貨は全部で15枚になります。ワンコインにするためにはこれを8枚と7枚に分け、8枚支払い、7枚おつりをもらうことになります。「支払金額をなるべく大きく」「おつりの額をなるべく小さく」なので、支払額は額面の大きい方から8枚の硬貨(500円玉1枚、100円玉4枚、50円玉1枚、10円玉2枚で970円)、おつりは額面の小さい方から7枚の硬貨(1円玉4枚、5円玉1枚、10円玉2枚で29円)。差し引き941円となります。10円玉2枚は支払とおつりとで相殺するので、結果的に無視されることになりますが。

さて、ここで条件を変えて

  • 支払およびおつりは、使う硬貨の数が最小になるように行なわれる。

としたらどうなるでしょうか。

この場合、上に書いたとおり、1000円を500円玉2枚で支払うことが可能になります。したがって「支払金額をなるべく大きく」するということは、「すべて500円玉で支払う」ということになります。一方、そのときにはおつりに500円玉は使えませんから、おつりの上限は499円。そのときの硬貨の枚数は14枚(100円玉4枚、50円玉1枚、10円玉4枚、5円玉1枚、1円玉4枚)ですから、ワンコインにするためには15枚の硬貨を支払うことになります。つまり500円×15枚で7,500円の支払い。おつりが499円なので、この場合の上限額は7,001円ということになります。7,001円のワンコインランチ…

荒唐無稽ついでに、対象とする硬貨を「日本円ベースのあらゆる硬貨」としてみたらどうかるのかを考えてみました。Wikipediaの「日本の記念貨幣」には、記念貨幣の額面には以下のものが記載されています。

  • 100円
  • 500円
  • 1000円
  • 5000円
  • 1万円
  • 5万円
  • 10万円

さああとは先ほどと同じ理屈で「支払金額をなるべく大きく」「おつりの額をなるべく小さく」してみると、答えは2,500,001円となりました(支払:10万円硬貨26枚、おつり:99,999円)。

うるさいわ(笑)


標準生命表の改定

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本日、金融庁告示第31号「保険業法第百十六条第二項の規定に基づく長期の保険契約で内閣府令で定めるものについての責任準備金の積立方式及び予定死亡率その他の責任準備金の計算の基礎となるべき係数の水準の一部を改正する件」が公布されました。即日施行ですので、保険関係法規集のほうも改正を反映しました。

今回の改正の内容は、本エントリのタイトルどおり「標準生命表の改正」です。生命保険の契約は長いので、生命保険会社は将来の保険金の支払いに備えて責任準備金を積立てておくことが保険業法で義務付けられています。この責任準備金の計算に用いられる死亡率が「標準生命表」です。マスコミ報道などではこの標準生命表について「生命保険会社が保険料を決定する基準」などと書かれていることがありますが、標準生命表が保険料を直接に規定するわけではありません。

この「標準生命表」は、日本アクチュアリー会が作成したものを金融庁が検証するという建て付けになっています。今回の改正では以下のようなスケジュールで進められました。

上記のとおり、パブリックコメントが日本アクチュアリー会によるものと金融庁によるものの2回実施されています。日本アクチュアリー会によるパブリックコメントでは特段の意見はなかったのですが、金融庁のほうは6の個人より6件のコメントがあったとのことです。コメントの概要には5件しか載っていないのですが、その中にこんな意見がありました。

アクチュアリーファームに勤める著名なアクチュアリーがブログを書いているのをご存知ですか?このブログには、標準利率について多角的な観点から何度もコメントしてありました。標準利率のルール改定の際には、参考にしたでしょうか。しかし、お気づきかもしれませんが、今回の標準死亡率は、このブログにはスルーされてしまいました。なぜとお考えでしょうか。こういった日本を代表するアクチュアリーの意見が全く反映されないからでしょう。もっと専門家の意見を聞くべきだと思います。

えーと、ここで言っておられる「標準利率についてのコメント」とは、このへんのエントリのことでしょうか?

だとすると、私のようなアクチュアリーを「著名」と言っていただけるのは汗顔の至りですが、ブログで取り上げなかったのは、標準死亡率について「べき論」を言うことが難しいから、ということに過ぎません。

標準利率は当時の改正内容が複雑であったことから解説が必要に思われたことと、設定・変更のプロセスが告示で規定されていることからコメントしやすかったという状況がありました。また経済環境に基づくわけなので、他金融商品との整合性等、比較に基づいたコメントのしようもありました。

一方で標準死亡率については、そもそも「どうあるべきか」を言うことが難しい基礎率なのです。例えば標準死亡率改定の頻度はおおむね10年ごとになっていますが、この頻度が少ないのか多いのかということすら一概に言うことはできません。米国のCSO表などは20年近く改定されていなかったということもありましたが、改定頻度を下げることは社会実態から乖離した基礎率を使うことにつながり、それは生保の健全性の中核たる責任準備金の基礎率としてどうなのよ、という話にもなります。

また、国債の市場価格を反映して計算される標準利率と異なり、標準生命表は「死亡率」の話です。したがって標準生命表について語るためには生命保険会社各社の死亡率と標準死亡率との乖離状況を問題とすべきということになるのですが(そうでないと責任準備金に対するマージンが適切かどうかの議論ができない)、販売商品や引受査定の方法などで生命保険会社それぞれの死亡率は異なる(つまり会社の個別性がある)ため、この点からも標準死亡率に関する「べき論」を一概に語るのが難しいのです。

まあそんなわけで今回は特にコメントしなかったのですが、最近更新をサボっているという反省もありますので、これからはエントリの頻度を上げていきたいと思います。

映画「ドリーム」

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映画というものはたいてい何かしら「クセ」が強くないとおもしろくないもので、そのため万人におすすめできる映画というのはそうそうないものです。この「ドリーム」という作品は、その意味では万人向けの映画でありながらおもしろい、という稀有な作品と言えるかもしれません。少なくとも、「『文科省推薦』と書かれそうだな」と思いながら観た映画がこんなにおもしろいという経験は、私にとって初めてのものでした。

舞台は1960年代初頭のNASA、そこで働く3人の黒人女性、キャサリン・ジョンソン、ドロシー・ヴォ―ン、メアリー・ジャクソンが主人公です。人種差別が当然のようにあった時代で、彼女らが行くオフィスの入口にいきなり「COLORED」と書かれていることにまずギョッとします。が、当然ながら差別されているのはオフィスにとどまらず、バスの座席からトイレまで白人と非白人の区別があります。これが時代背景その1。

そしてこの時代は、ソ連との宇宙開発競争が最も激しい時代でもありました。しかもソ連は1957年に初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功し、1961年に初の有人宇宙飛行を成功させてガガーリンに「地球は青かった」と言わしめ、NASAとしてはこれ以上後塵を拝することが絶対に許されなかった時代です。これが時代背景その2。

また、当時は"computer"という単語はまさに「計算する人、計算手」という意味でした。昔の保険会社の経理部門にはそろばん十段といった人がいましたが、数学的素養を備え、計算をなりわいとする人々のことをcomputerと呼んでいたのです。映画の中ではちょうどIBMが(現在の意味での)コンピューターを開発してNASAに納入するのですが、映画中では「コンピューター」と呼ばれず「IBM」と呼ばれていた、そんな状況が時代背景その3になります。

この3つの時代の変化に対して自分たちの才能と実力をもって立ち向かい、あるいはうまく利用していく彼女らの姿は、まさに痛快というほかありません。彼女らの痛快な活躍ぶりは実際に映画をご覧いただくほうがよいかと思いますので、ここでは彼女らを取り巻く人物について少し思ったところを記します。

まずキルティン・ダンスト演じるヴィヴィアン・ミッチェル。彼女はドロシーら黒人計算手チームの上司です。今では非白人が使ってはいけないトイレがあるなんてそれこそ大炎上ものですが、当時はそれが当たり前でした。その意味でヴィヴィアンが当時の「常識人」であったことがこれでもかと描かれているわけですが、自分たちの常識がつねに常識であると考えてはならない、ということを改めて気付かされる存在でした。

もう一人は、ケビン・コスナー演じるハリソン本部長。キャサリンは黒人女性として初めてハリソン本部長の部署に採用されるのですが、白人男性ばかりの周囲からは非協力的な態度をとられ、またその部署に有色人種用のトイレがないばかりに毎日別の棟へと走る羽目になります。そんなとてつもなく非効率的な職場環境の中できっちり仕事をやり遂げるキャサリンの才能をハリソン本部長は認め、彼女のために前例のないことを次々と行います。これは差別撤廃への取り組みというより、何としてでも有人宇宙飛行を成功させるという「信念」のなせる業といったほうがいいように思います。

差別との戦い、というといかにも説教くさく聞こえますが、この映画はそんなことを微塵も感じさせません。それは、ハリソン本部長と同じように、キャサリン・ドロシー・メアリーの3人が「自分の果たすべきことは何か」「そのために何をすべきか」を貫いた、その「信念」を描いた映画だからだと思うのです。

とにかく、一見の価値ありの映画です。

映画の原作本です。そういえば邦題はもともと「ドリーム 私たちのアポロ計画」だったのが、内容にアポロ計画がほとんど関係ないということで大炎上して単に「ドリーム」になったのでした(ちなみに原題は"Hidden Figures")。そんなに無理に「アポロ計画」と入れるよりはこの原作本タイトルのほうがよかったようにも思います。「計算手」はちとマイナー感ありますが…

2018年4月の保険料率改定

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11月9日・10日と、アクチュアリー会の年次大会がありました。その2日目のプログラムに、このブログでも以前にエントリとして上げた標準生命表の改定をテーマとしたプレゼンテーションがあったのですが(私はそこで司会をやってました)、標準生命表改定の検討を行なってきた標準死亡率調査部会の部会長によるプレゼンとあって、標準生命表導入の経緯や背景、その改定手続き、生命表作成に関する論点など、幅広くお話しいただきました。

生命表がテーマとして論じられることはやはり改定のとき以外はなかなか幅広くは行なわれないので、生保のアクチュアリーやアクチュアリー試験の受験生の方は必読かと思います。アクチュアリー会会員の方はぜひアクチュアリー会のウェブサイトから入手を。ちなみにアクチュアリー会の会員以外も、標準生命表2018の作成に関する資料は入手できます。

で、この標準生命表2018は来年4月から適用されるのですが、この改定を受け、団体保険の保険料率の改定が明治安田生命から発表されていますね。私の知る限り、標準生命表の改定を契機とした保険料率改定の発表はこれが業界初ではないかと思います。

これから来年4月に向けて、各社とも個人保険を含め保険料率の改定の検討(改定するかしないかを含めて)が進められると思いますので、要注目です。

なお蛇足ながら、標準生命表自体は保険料を決定付けるものではなく、あくまでも法定の標準責任準備金の計算基礎にすぎません。ただ、保険料は責任準備金を積み立てるための大きな財源要素の一つであるため、標準生命表が変わって標準責任準備金の水準が変わると、保険料率を変えることを検討する必要が生じる、ということです。マスコミなどでは標準生命表自体が保険料の計算基礎であるかのように書かれていることがありますが、そうではないので念のため。

次の元号は何か

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天皇陛下、19年4月末退位・5月1日改元へ 新元号18年にも公表

ということで新しい元号が来年にも発表される見通しですが、元号そのものを当てるのは難しいにしても、アルファベットぐらいは推測できるのではないか?と思い、ちょっと考えてみました。

現在の元号である「平成」を選定する際、他の候補として「修文」「正化」があったそうですが、これらは頭文字が「S」となり、昭和と同じになってしまうということもあって「平成」になったとのこと(Wikipediaより)。同じように考えると、過去の元号と同じアルファベットが頭文字になる元号は採用されないだろう、と推測できます。

では過去の元号の頭文字はどんなアルファベットだったのか?

ここでまたWikipediaに頼ってみます。日本の元号一覧にあるものの頭文字を集めてみると次のようになりました。

アルファベット適用数
A6
B16
C11
D4
E28
F0
G15
H11
I0
J21
K66
M8
N6
O8
P0
R4
S26
T34
U0
W1
Y2
Z0

※一つの元号に複数の読み方が掲げられているものは重複してカウントしています。

これを見ると、今までに使われていないアルファベットはF, I, P, U, Zの5つ、ということになります。ただし、Fはヘボン式では「ふ」の頭文字として使われる可能性があるものの、訓令式だとHになってしまって平成とかぶることから、実際にはI, P, U, Zの4つでしょうか。

…と、ここまででみなさんお気づきだと思いますが、現時点で元号の頭文字として使われている「M」「T」「S」「H」はすでに何度も使われているんですよね。「T」なんて34回も使われています。

そういう意味では、むしろ「過去によく使われていて、かつM, T, S, H以外」というのがありそうに思われます。そのように考えると、ダントツで使われている「K」が最も可能性が高そうです。

ということで、「H31.4.30」の翌日は「K1.5.1」ではないかと思いますが、どうでしょう?答えは1年半後に。

映画「gifted/ギフテッド」

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フロリダのボート修理工フランク・アドラーのもとで育てられる7歳の女の子、メアリー。普通の女の子かと思いきや、彼女は数学に関して天才的能力を持つ「ギフテッド」でした。フランクは、天才数学者であった姉ダイアンの遺児であるメアリーを「普通の子供」として育てようとします。しかし周囲はメアリーの数学的才能を放ってはおかず、ギフテッド教育の充実した学校に転校させようとします。そして彼女の才能に最も執着する祖母イブリンとフランクとの間に、メアリーをめぐる親権争いの裁判が起こされます…

本作品ではメアリーの叔父であるフランクと、メアリーの祖母であるイブリンとの間の親権争いということで、親族関係がやや複雑ではあるものの、子供が男性の養育者になついており、かつ男性側が(特に経済的に)不利な条件での争いを強いられるという点では、親権争いの名作「クレイマー、クレイマー」のテッドとビリーを彷彿とさせるところがあります。

一方で子供が5歳の男の子だった「クレイマー、クレイマー」に対して本作「gifted/ギフテッド」は7歳の女の子ということもあって、養育者である叔父に対してませた口をきいたり、意見を言ったりする場面がしばしば見られます。このあたりはこの作品の醍醐味だと思いますのでぜひ劇場でご覧になってください。

「gifted/ギフテッド」はドラマとして十分に楽しめる作品になっていますが、このブログを読むような方に対しての魅力としてもう一つ「数学」というものが挙げられるでしょう。メアリーの亡き母ダイアンが挑戦していたのはミレニアム問題の一つナビエ・ストークス方程式であり、祖母イブリンがメアリーにミレニアム問題を説明する場面では、ポアンカレ予想を解いたグリゴリー・ペレルマンにも触れられます。ほかにも「トラハテンベルグ法」(ネタバレになるのであえてリンクは張りません)とか、さらにみなさんがおなじみの(本当におなじみの)式の証明にメアリーが取り組ませられる場面も現れたりして、いろいろとツボにハマります。

そして一番驚いたのは、エンドロールに数学面でのコンサルタントがクレジットされており、その中に2006年のフィールズ賞を受賞した「テレンス・タオ」の名前が! こういうところでプロフェッショナル、しかも超一級の数学者が参加するあたり、さすがとしか言いようがありません。(ちなみにコンサルタントの名前はたしか4人挙がっていたのですが、あとの3人が記憶に残ってません。ご覧になった方はお教えください。)

なお、映画自体はそれほど数学の内容に突っ込んだものはありませんし、数学を知らなくてもドラマとして十分に面白いです。フランク役のクリス・エヴァンス、メアリー役のマッケナ・グレイスの演技は本当に素晴らしいですし、フランクとメアリーの良き隣人として、先日ご紹介した「ドリーム」のオクタビア・スペンサーが出ており、これまたいい味を出してます。おすすめです。

2017年に観た映画(私的)ランキング

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さて、去年も書いたこのエントリ。誰得なのは百も承知で今年も備忘のため書いておきます。今年は、新作映画としては81本観たので、ランキングは81!通り(5×10120通り)となり、もはや見直す気力もありません。上位の方は後付けでちょっと直しましたが、まあ雰囲気程度のものだとお考えください。なお、リンクがあるのは鑑賞時にブログエントリとして載せたものです。

  1. ドリーム
  2. ベイビー・ドライバー
  3. gifted/ギフテッド
  4. バーニング・オーシャン
  5. 虐殺器官
  6. ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ
  7. 新感染 ファイナル・エクスプレス
  8. ゴールド/金塊の行方
  9. マンチェスター・バイ・ザ・シー
  10. 三度目の殺人
  11. 劇場版 響け!ユーフォニアム 届けたいメロディ
  12. パトリオット・デイ
  13. ダンケルク
  14. 3月のライオン 後編
  15. ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦
  16. 百日告別
  17. 世界は今日から君のもの
  18. 夜は短し歩けよ乙女
  19. スパイダーマン ホームカミング
  20. LOGAN ローガン
  21. サバイバルファミリー
  22. 沈黙ーサイレンスー
  23. 否定と肯定
  24. 探偵はBARにいる3
  25. ラ・ラ・ランド
  26. 愚行録
  27. ショコラ 君がいて、僕がいる
  28. 幼な子われらに生まれ
  29. ヒトラーへの285枚の葉書
  30. セールスマン
  31. ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜
  32. 女神の見えざる手
  33. BLAME! ブラム
  34. 3月のライオン 前編
  35. サーミの血
  36. 機動戦士ガンダム THE ORIGIN 激突 ルウム会戦
  37. しあわせな人生の選択
  38. 皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ
  39. 甲鉄城のカバネリ 総集編 前編 集う光
  40. 彼女がその名を知らない鳥たち
  41. ワンダーウーマン
  42. 午後8時の訪問者
  43. ReLIFE
  44. ブルーハーツが聴こえる
  45. ザ・コンサルタント
  46. 甲鉄城のカバネリ 総集編 後編 燃える命
  47. ガールズ&パンツァー 最終章 第1話
  48. 散歩する侵略者
  49. ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章
  50. ヒトラーに屈しなかった国王
  51. ギフト 僕がきみに残せるもの
  52. エル ELLE
  53. ライフ
  54. ジョン・ウィック:チャプター2
  55. ちょっと今から仕事やめてくる
  56. 美女と野獣
  57. メッセージ
  58. ゴースト・イン・ザ・シェル
  59. アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発
  60. 僕と世界の方程式
  61. スター・ウォーズ/最後のジェダイ
  62. ブレードランナー 2049
  63. 雨の日は会えない、晴れた日は君を想う
  64. 心が叫びたがってるんだ。
  65. 彼女の人生は間違いじゃない
  66. TAP THE LAST SHOW
  67. アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男
  68. ソウル・ステーション パンデミック
  69. きみの声をとどけたい
  70. 東京ウィンドオーケストラ
  71. 恋妻家宮本
  72. パッセンジャー
  73. パーティで女の子に話しかけるには
  74. 草原の河
  75. ハクソー・リッジ
  76. 全員死刑
  77. GODZILLA 怪獣惑星
  78. 追憶
  79. メアリと魔女の花

「光」が38位と77位にありますがこれは間違いではなく、38位のほうが河瀬直美監督の「光」、77位のほうが大森立嗣監督の「光」です。

今年観た映画を振り返ってみて、感想をいくつか。

  • 漫画原作の実写化はしばしば批判の対象となりますが、「3月のライオン」といい、「ジョジョの奇妙な冒険」といい、意外に悪くなかったように思います(ただし「鋼の錬金術師」を観たら感想が変わるかもしれません)。
  • 「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」といい、「ブレードランナー 2049」といい、「GODZILLA 怪獣惑星」といい、大ヒット映画の続編的な作品は、私にとっては総じて残念な結果でした。前作からの期待が大きすぎたのか、そもそも私が期待していた方向そのものがズレていたのか…
  • 新作ではないので上のランキングには載せませんでしたが、今年劇場で観た映画の中で最も圧倒されたのは、原一男監督の「ゆきゆきて、神軍」でした。ベストとかワーストとかそういうランキングで収められないような作品で、まさにドキュメンタリーの真骨頂、すごい「圧」を感じる映画でした。

観た本数そのものが目的ではないので「来年は100本!」などとは言いませんが、来年も素晴らしい作品に数多く出逢えますように。

アクチュアリーの経営トップ

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日本生命の社長が交代するというニュースがありました。

この次期社長の清水博氏はアクチュアリーです。こんな本も書いておられます。

出版が1994年とかなり古いですが、剰余はすべて契約者に還元すべきとされていた相互会社において自己資本を積み立てる「エンティティ・キャピタル・モデル」を提唱した本です。

さて、アクチュアリーが社長になることについては4年ほど前にも似たようなエントリを書いたのですが、今はどのような生保会社にアクチュアリーが経営トップとしておられるのでしょうか。調べてみるとこんな感じです。

  • 明治安田生命:根岸秋男社長
  • 三井生命:有末真哉社長(4月1日から会長)
  • SBI生命:飯沼邦彦社長
  • アリアンツ生命:加藤隆社長
  • アクサダイレクト生命:住谷貢会長(非常勤)
  • プルデンシャル・ホールディング・オブ・ジャパン:倉重光雄会長兼CEO(ジブラルタ生命会長、プルデンシャル生命会長(非常勤))

社長・会長という意味では現在6名(4月から7名)ということですね。

で、日本生命の経営トップがアクチュアリーということになると、アクチュアリーという職種自体に関心が向くわけで、次のような記事が出てました。

一生食いっぱぐれない専門職 「アクチュアリー」って何だ?(週刊文春2018年2月8日号)

天下の文春様でアクチュアリーの記事を目にする日が来ようとは。さっそく記事を見てみたいと思います。

正会員は日本全体でも1700人ほどしかいない。

日本アクチュアリー会のサイトを見ると、2017年3月31日現在で正会員1,654人とありますね。

保険会社の役員には必ずアクチュアリーがいて、経営会議には主席アクチュアリー役として参加する。

「主席アクチュアリー役」って特定の会社にしかない役職のような気がしますが…それはさておき、保険会社の役員には必ずアクチュアリーがいるというのは本当でしょうか。

で、調べてみました。生命保険会社だけですが。

最近は「役員」といってもいろいろな種類がありますが、取締役・監査役・執行役・執行役員のいずれかで、2017年のアニュアルレポートにアクチュアリー(日本アクチュアリー会の正会員)が載っているかどうかを調べてみたところ、生保41社中、役員にアクチュアリーのいる生保は27社。意外にも1/3の会社は役員にアクチュアリーがいないのですね。

外資系の会社などですと外国のアクチュアリー資格を持つ人が役員にいるケースもあったりしますし、その意味では目安程度の数字ですが、文春にあるとおり、「生保大手4社のうち2社のトップがアクチュアリー出身となった」今回をきっかけに、アクチュアリーが経営に参画する場面がもっと増えるといいですね。


平成最後の官報

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政府公報である官報、2018年3月30日時点で第7226号が発行されています。

この第7226号という番号、当然ながら発行のつど数字が増えていくわけですが、では第1号はいつだったかというと「1989年1月9日」、昭和天皇が崩御され、平成が始まったときに番号がリセットされているのです。(実際には平成の始まりは1989年1月8日ですが、その日は日曜日のため、通常の官報は発行されませんでした。)

ここまで書くともう想像がつくと思いますが、「平成の官報が第何号まで発行されるか」がすでに分かっちゃうわけです。

で、数えてみました。

平成最後の日である2019年4月30日には「官報第7498号」が発行されます。ちなみに昭和最後の官報(1989年1月7日(土)発行。当時はまだ土曜日も発行してたんですね)は第18859号でした。

まあ2019年4月30日に官報第7498号が発行されるというのはかなり確実ではありますが絶対というわけではなくて、一つの可能性として、今から改元までの間に国民の祝日が増えちゃったりすると数字が変わることはありえます。

さて、次の官報第1号は、どういう元号のもとで発行されるんでしょうか?

日本法人化

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(2018.4.3 社名の誤りを訂正しました。ご指摘ありがとうございました。)

アヒルのCMで有名な「アフラック」という生命保険会社がありますね。この会社、正式名称は「アメリカン・ファミリー・ライフ・アシュアランス・カンパニー・オブ・コロンバス日本支店」という名前でした。昨年度まで。

2018年4月2日から、「アフラック生命保険株式会社」という名称で営業しています。

正確には両者は別の法人で、「アメリカン・ファミリー・ライフ・アシュアランス・カンパニー・オブ・コロンバス日本支店」は米国の法人の日本支店、「アフラック生命保険株式会社」は日本で登記された日本の法人です。保険業法上も免許が別になっており、「アメリカン・ファミリー・ライフ・アシュアランス・カンパニー・オブ・コロンバス日本支店」のほうは保険業法第185条の外国保険業免許、「アフラック生命保険株式会社」は保険業法第3条の保険業免許を取得しています。

2018年4月2日はほかにも「カーディフ生命保険株式会社」「カーディフ損害保険株式会社」が営業を開始していますね。

で、金融庁のサイトを見ると、生命保険会社の免許一覧が早くも更新されています。外国生命保険業免許に基いて営業しているのはチューリッヒ生命1社なんですね。一方、損害保険会社の免許一覧のほうには外国損害保険業免許の会社がずらりと並んでいます。

ここで「外国保険業免許と日本の保険業免許は何が違うのか?」「外国生命保険業者の数が、生命保険と損害保険で大きく違うのはなぜか?」といった疑問が出てきます。

外国保険業免許と日本の保険業免許の違いについては、まず設立のための必要資金が違います。日本で保険会社を設立するためには資本金は最低10億円かかるのに対して、外国保険会社の日本支店の場合、資本金(供託金といいます)は2億円で済みます。実際には高いソルベンシー・マージン比率を確保するためにより多くの金額が必要になる可能性はありますが、まあ法的な最低限度は外国保険会社のほうが低くなっています。

また、生命保険と損害保険の違いについては、損害保険の一つである海上保険をイメージすると分かりやすいかと思います。海上保険は船舶や航空機で輸送される貨物に対する保険であり、当然ながら世界中で補償が発生します。グローバルな会社を顧客としている場合、その会社に保険を提供している側もグローバルに支店を持っておく必要があるわけです。

まあ、ここに書いたような理由だけで決まるほど単純ではありませんが、会社形態の微妙な違いから、会社の戦略を推測したりするのもなかなかおもしろいのではないでしょうか。

日本生命の総資産、かんぽ抜く

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2018年度の第1四半期決算が出ましたね。そこではこんなニュースが。

日本生命の総資産が2018年6月末で初めてかんぽ生命を抜いたというものです。

で、過去の両社の推移がどうだったか、単体と連結の総資産をみてみました。

Totalassets

年次データなら「インシュアランス統計号」とかでまとめてデータ取れるけど、四半期ごとのデータってそれぞれの会社のHPから拾ってこないといけないんですね…直近2年以内なら生命保険協会のHPにありますけど…

さて、このグラフを見るといくつかのことがわかります。

まず、日本生命の総資産は2012年ごろまではおおむね横ばいだったのが、以降右肩上がりに伸びています。これは株式相場の上昇によるところが大きいでしょう(子会社株式以外の株式は「その他有価証券」に分類され、貸借対照表上は時価評価されます)。

また、2015年12月末から、連結総資産が単体総資産を大きく上回っています。これは三井生命の買収によるもので、それ以降もオーストラリアのMLCの買収による増加(2016年12月末から)があり、今回(2018年6月末)からはマスミューチュアル生命が加わっています。

一方のかんぽ生命の総資産は減少を続けていますが、これは民営化する前の旧簡易生命保険契約が養老保険中心であり、その満期による減少と思われます。

ちなみに、民営化前の旧簡易生命保険契約は独立行政法人郵便貯金・簡易生命保険管理機構(「機構」)に承継され、機構からかんぽ生命に出再されるという形になっています。このため、かんぽ生命にとっては旧簡易生命保険契約は「受再保険」に分類され、「個人保険」や「個人年金保険」には計上されていません。ただし、機構のHPには旧簡易生命保険のデータが(かなり細かく)掲載されています。

郵政民営化でかんぽ生命が事業を開始したのが2007年10月ですから、そこから10年と9ヶ月。ひとつの歴史的な出来事といえるかもしれません。

書評:保険業界戦後70年史

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(2018.11.5 社名の誤りを訂正しました。ご指摘ありがとうございました。)

戦後の生損保経営史をつづった本。これはマニアックですよ。

戦争被害からの第二会社の設立から高度経済成長、バブルを経て、失われた20年までの生保・損保業界が詳しく述べられています。

著者の九條守氏はおそらく損保業界の人なのでしょう、どちらかといえば損保のほうが詳しく書かれていますが、生保も、特に営業体制の歴史が概観できたのは有益でした。

明治の創業期の生保の営業は、 生命保険事業というものに関する世間の理解がまだ浅いことを理由に「名家・紳商等」、つまり知識層・富裕層を相手にした代理店扱が主であったとのことです(ただし第一生命は経費節減のため代理店扱を採用しなかった)。これに対して小口・月掛の簡易保険事業が国による独占事業として営まれていたわけですが、戦後、国による独占が解除されても、事業費効率の観点から民間生保各社は小口・月掛への進出をためらっていたという話は耳新しかったです。

また、このブログでも以前に取り上げた「戦争未亡人の雇用による女性営業職員の増加」が俗説かどうかという話ですが、本書では上記の小口・月掛への進出に関連して、以下のように書かれています。

生命保険各社の「月掛保険」は販売好調だったのですが、やはり当初懸念したとおり、この毎月の保険料を集金する業務が、契約件数が増加するに従って、保険会社の悩みの種になってきました。(略)

そこで、生命保険会社は、保険料の集金業務に特化したパート従業員を雇用することにしました。これらのパート従業員は、主に戦争未亡人が採用されました。終戦直後で働き口も非常に少ない状況の中、生活に窮していた戦争未亡人には、集金だけをして報酬を貰える仕事は魅力的でした。(略)

1951(昭和26)年に、明治生命保険は、集金業務をしていた女性パート従業員に保険募集も任せ、女性外務員として営業活動を行うことを始めました。その際、明治生命保険は、米国プルデンシャル社と提携し、同社の「デビット・システム」を導入しました。(P88-90)

米山先生の「戦後生命保険システムの改革」では女性営業職員の増加が昭和30年代に入ってからとのヒアリングに基づいていることを考えると、戦後すぐは戦争未亡人は営業ではなく集金を行っており、昭和26年から会社が営業への活用も行うようになったという本書の記述はいろいろとつじつまが合います。

他にも興味深く読んだ部分は多いのですが、いくつか残念な点が。

まずは誤植が多い。「ジブラルタ生命」が「ジブラルタル生命」になっていたり、「アメリカン ファミリー ライフ アシュアランス カンパニー オブ コロンバス日本支社」が「アメリカン・ファミリー・アシュアランス・オブ・コロンバス日本支社」になっていたり「更生特例法」が「更正特例法」になっていたり。

また、相互会社の資金調達について

資金調達が、株式会社は自社の株式発行で比較的容易であるが、相互会社は利子返済義務がある基金を機関投資家等から募る必要があり困難。(P30)

とありますが、証券化手法を用いた基金募集が主流になった現在ではやや古い議論かなと思います。相互会社についてはほかにも大和生命の破綻に関連して

相互会社であれば、保険契約者に高リスクの負担を強いるような大胆で無謀な経営は行うことが難しく、安全・慎重に臨むような経営をすると考えられますが、株式会社の場合は、株主が利益の最大化を求めるため、ハイリスク・ハイリターンの危険な経営をするおそれがあるというのです。これは、株式会社化が裏目に出て、株式会社化が破綻の要素となった不幸なケースだったのかもしれません。 (P295)

と書かれているのですが、1997~2000年に破綻した生保の多くは相互会社でしたよね?

そして一番首をかしげたのはこの部分。

1999(平成11)年度の時点における生命保険会社の保険料等収支状況(保険料等収入から保険金等支払金を差し引いた額)を見ると、大半の会社(日産生命保険は既に破綻)はマイナスであり、「逆ザヤ」状態でした。プラスを維持している生命保険会社は、大手は日本生命保険と安田生命保険の2社、中堅生命保険会社は太陽生命保険、大同生命保険、富国生命保険の3社だけだったのです。 (P160)

こんな「逆ザヤ」の定義は、少なくとも私は聞いたことがありません。百歩譲ってネットキャッシュフローを簡易的に算出しようとしたのだとしても、事業費と資産運用からのキャッシュフローが抜けてますし…

ちなみに「生命保険会社のディスクロージャー虎の巻」では、生命保険業界の逆ざや額の定義は次のようになっています。

順ざや/逆ざや額=(基礎利益上の運用収支等の利回り-平均予定利率)×一般勘定責任準備金

まあそんなわけで財務的な部分はちと首をかしげる部分もあるものの、保険業界の歴史は多くが公式資料に基づいた「カタい」話になりがちなところ、護送船団行政の中での商品認可に関する大蔵省(当時)と各社の綱引きであるとか、2000年前後における生損保両方を巻き込んだ業界大再編の構想といった『業界ウラ話』的な要素も多分に含まれていて、楽しく読ませていただきました。

三井生命の社名変更

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2015年度に日本生命グループに入った三井生命が「大樹生命」に社名を変更するそうです。

新社名の「大樹」は三井生命の主力商品名ですね。

日経新聞の見出しには「90年の伝統」とありますが、実は三井生命はその間にも一度社名変更をしており、1947年から1952年までは「中央生命保険」という社名でした。この経緯は前回紹介した「保険業界戦後70年史」にも書かれています。

財閥系生命保険会社は、第二会社の設立に際し、財閥商号の使用を禁止され、三井生命保険は中央生命保険、住友生命保険は国民生命保険、安田生命保険は光生命保険、野村生命保険は東京生命保険、日産生命保険は日新生命保険というように、商号変更を余儀なくされたのです。(p32)

ここで「第二会社」という表現が出てきていますが、これは保険会社が戦争により壊滅的な打撃を受けたため、再建のために別会社を設立したものです。したがって三井生命の歴史は、正確には以下のようになります。

  • 1914年:「高砂生命保険株式会社」として発足
  • 1927年:三井財閥下に入り、「三井生命保険株式会社」に社名変更
  • 1947年8月:第二会社である「三井生命保険相互会社」を設立
  • 1947年11月:「中央生命保険相互会社」に社名変更
  • 1952年6月:「三井生命保険相互会社」に社名を戻す
  • 2004年4月:株式会社化し、「三井生命保険株式会社」に改組
  • 2015年12月:日本生命によるTOB成立→日本生命グループ入り
  • 2019年?:「大樹生命保険株式会社」に社名変更?

日経新聞で「90年の伝統」と言っているのは1927年を起点としたものですが、「中央生命」への社名変更以外にも正式な法人名という意味では(組織変更などがあるので)けっこう変わっています。ちなみにこの社名の歴史は、生命保険協会の「会員会社の変遷図」を参考にしました。

さて、このほかにも日本生命グループでは、マスミューチュアル生命が「ニッセイ・ウェルス生命」へと社名を変更することを予定しており、さらに代理店向け新会社の設立も発表されています。

2019年度は耳新しい生命保険会社が増えそうですね。

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